マンションの消防設備
火災の発生を感知・周知・通報するための「自動火災報知設備」や「非常警報設備」、住人がおこなう初期消火のための「消火器」や「屋内消火栓設備」、居住者が避難するための「避難器具(避難はしごなど)」や「誘導灯・誘導標識」、消防隊が消防活動に使用するための「連結送水管設備」など様々な設備があります。また、大規模のマンションでは「非常コンセント設備」や「スプリンクラー設備」の他、機械式駐車場では「移動式粉末消火設備」や大型の立体駐車場に設置される「泡消火設備」などもあります。
消火設備
消火器
マンションに設置される消火器は、共用廊下などに歩行距離20m以内ごとに設置されています。消防訓練などで実際に操作をおこなって使用方法になれておく必要があります。消火器にも「粉末消火器」「泡消火器」「二酸化炭素消火器」といった様々な種類がありますが、最も普及しているは、粉末消火器です。
屋内消火栓設備
一定規模以上のマンションでは、屋内消火栓設備が共用廊下や階段の踊り場などに設置されています。屋内消火栓設備は、火災の初期消火を目的にマンションの住人が操作して使用するための消防設備です。1号消火栓は、操作のため通常2名以上で放水する仕組みのため訓練が不可欠です。消防車が到着するまでの初期消火に使用する重要な設備ですので、消防訓練などで実際に操作方法を学んでおく必要があります。
スプリンクラー設備
一定規模以上のマンションではスプリンクラーの設置が義務付けられています。スプリンクラー設備は、火災を早期に感知して自動的に消火する設備です。スプリンクラー設備には、使用するヘッドの種類などによって複数の種類があります。
警報設備
自動火災報知設備
自動火災報知設は「受信機」「発信機」「表示器」「表示灯」等で構成されます。火災を感知器で感知して警報ブザーを鳴らすほか、管理室で火災の発生場所を表示します。感知器はマンション内の専有部の天井や共用部に設置されています。住人が発信機のボタンを押すことで警報をだし、マンションの住人に火災を知らせます。
避難設備
マンションの避難設備とは火災が発生した際に住人が避難するために用いられる器具や設備のことです。マンションの避難経路は基本的に2方向以上の避難ルートが確保されています。一般的に「玄関から出て階段を使う避難経路」と「バルコニー側からの避難経路」が使われます。2方向の避難経路を確保するためにベランダに避難ハッチ等が設置されています。
誘導灯・誘導標識
誘導灯とは、火災が起こった際に、火災の濃煙や暗がりの中でも建物内の住人を安全に建物の外に誘導するための照明器具のことです。誘導標識は、避難方向へ安全に誘導するための「非常口」「非常階段」などと書かれた標識のことです。停電時にも点灯するように非常電源が内蔵されています。
避難器具
マンションではは建築基準法により二方向の避難経路を確保しなければならないとされているためバルコニーに「避難はしご」「緩降機」「救助袋」などが設置されています。消防訓練の際などに使用法を確認しておくことが必要です。
消火活動上必要な設備
連結送水管
消防隊が消防車のポンプ車とマンションの入り口付近にある連結送水管に接続して圧送し共用廊下などの放水口から放水します。居住者が使用するのではなく消防隊が使用する消防設備です。基本的に、7階建て以上のマンションに設置されています。
非常用コンセント
一定規模以上のマンションでは、非常用コンセントの設置が義務付けられています。非常用コンセントは、消消防隊が使用する救助用工具や照明器の電源になります。
マンションの消防設備点検
マンション管理組合の運営において欠かせないのが防火管理に伴う消防設備点検です。マンションでは多くの方が暮らすため、火災発生時にこれらの消防設備が確実に作動するかどうか定期的に点検をおこなう必要があります。マンションでは、消防法の17条3の3により、消防用設備を定期的に点検を実施し、その結果を消防長または消防署に報告する義務があります。この点検のことをマンション管理では「消防設備点検」と呼んでいます。マンションの消防設備は、6ヶ月ごとに機器点検と年1回の総合点検をおこない、その点検結果を3年ごとに管轄の消防署に報告するように定められています。
消防設備点検の実施頻度と内容
マンションでの消防設備点検は、6ヶ月ごとに行う「機器点検」と、1年ごとに実施する「総合点検」に分けて実施します。機器点検では、消防設備がそれぞれ適正に設置されているか、損傷がないかなどを外観から点検するとともに、簡易的な動作確認も行います。点検頻度としては最低6カ月に1回の実施が必要です。
一方、総合点検の頻度は、最低1年に1回です。実際に火災警報器を鳴らしたり避難はしごを作動させる必要があるため、マンションの住人の協力が欠かせません。いずれにしても、火災が発生したときに消防設備が確実に作動するように、しっかりと点検を行うことが重要です。これらのうち、居室内で行われるのは、自動火災報知設備の点検が中心です。ベランダに避難用はしごなどが設置されている場合は、これも点検対象になりますが、問題がなければおよそ5分から10分で点検が終了します。
- 機器点検(6ヶ月に1回)
- 消防用設備等の機器の機能について、外観から又は簡易な操作により判別できる事項を確認
- 総合点検(1年に1 回)
- 消防用設備等の全部若しくは一部を作動させ、又は当該消防用設備等を使用することにより、当該消防用設備等の総合的な機能を確認
マンションでは3年に1度、消防設備点検の結果を消防長又は消防署長に報告する必要があります。
竣工10年後から点検項目が追加
マンションが竣工10年を経過すると点検項目に「連結送水管耐圧検査」と「消防ホース耐圧試験」が追加されます。実施には、追加の費用負担が生じるため管理組合会計が赤字にならないように事前に予算を計上しておく必要性があります。
- 連結送水管耐圧検査
- 竣工後10年経過で、耐圧性能試験が必要。(以降3年ごと)
- 消防ホース耐圧試験
- 製造後10年経過で、ホースの耐圧性能試験が必要。(以降3年ごと)※
※ホースを交換した場合は、その後10年間、耐圧性能試験が免除となる。
消防設備点検の費用の目安
マンションの消防設備点検の費用は、マンションに設置されている消防設備の種類や建物の面積などによって大きく前後します。以下にマンションの消防設備点検の相場を掲載していますが、あくまでも目安としてご利用ください。
- ~300㎡(3階建)
- 機器点検 10,000円
- 総合点検 15,000円
- ~1,000㎡(5階建)
- 機器点検 25,000円
- 総合点検 35,000円
- ~2,000㎡(10階建)
- 機器点検 30,000円
- 総合点検 40,000円
- 2,000㎡~(11階建)
- 機器点検 50,000円~
- 総合点検 60,000円~
消防設備点検の実施率があがらない問題
マンションの 消防設備点検は、一般的に管理会社が手配して実施しますが、消防設備点検などは専有部内の設備も関わるため、室内に作業員が入室する必要があります。しかし、点検実施日に住人が不在の場合が多く、消防設備点検の実施率が低い傾向にあります。原因として考えられるのがマンションの住人や防火管理者の防火意識が低いことや、平日の点検を実施することも多いため、単身者や共働きの世帯では在宅が困難といったことがあげられます。「エレベータ点検」や「自動ドアの点検」であれば、マンションの住人が在宅しなくても作業に支障はありませんが、マンションの消防設備点検や排水管清掃は、専有部内の点検が含まれており住人の在宅が不可欠です。こうした在宅が必要な点検の実施率が上がらない問題は、管理組合にとっても頭を悩ませる課題のひとつです。
消防設備点検の「お知らせ」の例文
マンションの消防訓練(防災訓練)
マンションでは、消防訓練(防災訓練)の実施が義務付けられています。こうした訓練は、火災や地震などの災害発生時の住人の避難や管理組合の迅速な行動を左右する重要なものです。マンションで実施する消防訓練の「実施時期」や「訓練の内容」は『消防計画』に記載されています。未実施のマンションにおいては消防計画にしたがって実施するようにします。
マンションの消防訓練の内容と回数
マンションでは、消防計画を作成して消防署に届出をしなくてはなりません。この消防計画に「消火訓練」「避難訓練」「通報訓練」の内容や回数を記載されています。
種別 | 内 容 | 訓練の回数 |
消火訓練 | 消火器や屋内消火栓を使用した 初期消火の訓練 | 消防計画に定めた回数 |
避難訓練 | 建物内に発災を知らせ、避難、誘導 及び避難器具の訓練 | |
通報訓練 | 発災の確認後、建物内に周知し 消防機関に通報する訓練 |
マンションの消防計画とは
防火管理者は消防計画を作成して「消防計画作成(変更)届出書」を管轄の消防署へ届け出る必要があります。通常は消防庁が作成している見本を基に、各マンションの状況にあわせた消防計画書を作成します。実務上は、マンションが竣工した時に管理会社の担当者が消防計画(案)を作成し、最初に選任された防火管理者が目を通した上で消防署に提出していることが多いでしょう。