マンションに設置されている立体駐車場設備とは
平面式駐車場(平置き)
一番オーソドックスでシンプルな駐車場の利用形態が平面式(平置き)駐車場と呼ばれるものです。敷地の空きスペースなどを利用して白線を引いて区画を設け、その区画ごとに駐車します。機械式駐車場設備が充分に普及していなかった古いマンションに多い形態です。広い敷地を必要としますので、地方都市のマンションや郊外の大型マンションなどでよく利用されている形態です。平置きの駐車場はマンションの敷地の路面に直接駐車しますのでメンテナンスの費用はほとんどかかりません。
自走式立体駐車場
平置駐車場をさらに有効活用し、2層3段、3層4段というようにフラットな駐車場と車が上下階に出入りするスロープなどを組み合わせた駐車場の形態です。平置駐車場と同じように平面区画に駐車ができますが、より多くの台数の車を収納することが可能で、また機械式駐車場や立体駐車場に比べて設備のメンテナンス費用が大幅に安くなるという特徴があります。大規模なマンションに設置されている方式です。
機械式立体駐車場
狭い空間を有効利用することを目的として、ここ十数年くらいの間に普及してきた形態です。2段パレット、3段パレットといったようにパレット(車が乗る台のことで、ちょうど料理をのせるお皿と同じ役割を果たしているものです)が、機械操作により上下あるいは左右に移動することにより、車の出し入れを行う形態を指します。操作盤を利用してご自分の車の入っているパレットを呼び出して、車の出し入れを行います。車を実際に入出庫させるまでに数十秒から数分の時間を必要とすることから、利用者が不満を抱くケースも多いようです。
タワーパーキング方式
別名タワーパーキングなどとも呼ばれる駐車場で、文字通りタワーのようにそびえ立つ駐車場に車が立体的に収納されています。操作盤にカードを出し入れするなどして、特定のパレットを呼び寄せて車を入出庫させるのが一般的な仕組みです。夏の暑い期間や冬の寒い期間は利用者の方からすると時間がかかり、面倒と言った声を耳にすることもあります。狭い敷地であっても効率的に多くの車を収納できますが、機械式駐車場と同じように特定のパレットを呼び出すのに、数分時間がかかります。
タワーパーキング(垂直循環方式)
一般的にタワーパーキングと呼ばれている方式で、多数のパレットを垂直面内に円形又は長円形に配置し、連続循環させる方式
画像出典:国土交通省「機械式立体駐車場の安全対策に関するガイドラインの手引き」
タワーパーキング(エレベータ方式)
一般的にタワーパーキングと呼ばれている方式で、複数の駐車室を立体的に配置し、パレットを搬送装置によって駐車室へ搬送することにより駐車を行う方式
画像出典:国土交通省「機械式立体駐車場の安全対策に関するガイドラインの手引き」
機械式駐車場に入庫できる車両サイズの制限
機械式駐車場に入庫できる車両のサイズには統一規格はありませんが必ず制限が設けられています。したがって駐車にあたっては自分の車が入庫できる車両サイズの制限以内であるかを事前に確認する必要があります。機械式駐車場に入庫できる車両サイズの制限には「車幅」「車長」「車高」「重量」等がありますが、分譲マンションで一般的となっている3段ピット式の機械式駐車場の場合には、2段目のパレットの高さ制限が厳しい構造になっていることが多いようです。サイズ制限をオーバーした車両でも物理的には入庫が可能な場合がありますが、駐車装置の動作時や地震の揺れによって車に傷がついたり、過去には地震によって、重量オーバーの車両の転落事故なども起っているため、制限オーバーの車両の駐車は厳禁です。
駐車場設備の維持管理のポイント
マンションの機械式駐車場設備は、専門業者による点検のほか、ある程度年数が経過すると部品交換や設備の入れ替え(リニューアル)などで高額な出費が必要となり管理組合の会計を圧迫します。将来的に管理組合の会計が破綻しないように、予め駐車場設備の維持管理費用について資金計画を練っておく必要があります。具体的には、長期修繕計画に機械式駐車場の維持管理費用をきとんと盛り込んで必要な修繕積立金を算出します。そして必要があれば修繕積立金の値上げや駐車場の使用料の改定をおこないましょう。機械式駐車場の空き区画が増加傾向にある場合には、機械式駐車場の解体や外部への貸し出しも検討しましょう。
駐車場使用料は「修繕積立金」に算入
駐車場使用料を管理費もしくは修繕積立金どちらに算入するのかは、管理組合の規約によって定められています。機械式駐車場の場合には、将来多額の改修(リニューアル)費用が発生しますので、機械式駐車場の点検費用を管理費会計から支払った残額は将来に備えて修繕積立金として貯蓄することが望ましいでしょう。
機械式駐車場の維持管理費は思いのほか高額!空き区画が増えたらすぐに対策をおこなう!
マンションの敷地内の駐車場が平面式の場合には、維持費用は区画の白線を引き直しやアスファルトを整備し直すくらいですのでそれほど費用を掛かりません。しかし、機械式駐車場や立体駐車場の場合には日常的なメンテナンス費用やリニューアル費用には莫大なお金がかかります。したがって、機械式駐車場の使用料をあてにしていると、駐車場の空きが増えることで管理組合の会計を圧迫します。
駐車場の空き区画の増加の問題
マンションの駐車場の空きが増加しています。自治体の条例で一定台数の設置が義務付けられる(附置義務駐車場)ケースも多く、そもそも分譲時点で駐車場の需要がない場所でも、必要以上の駐車場台数を設置する傾向があるからです。自分たちのマンションの駐車場で空き区画が増えた場合には、駐車場の使用料収入が減少して管理組合の会計を圧迫する事態となります。空き区画が増えるようなら早急に対策をおこないましょう。
STEP.1 近隣の相場を参考に駐車場の使用料の見直しをおこなう
空き区画が増えた場合には放ったらかしにしないで直ちに空き募集をおこないます。それでも駐車場の利用者が増えない場合には、近隣の駐車場相場などを参考に駐車場使用料の見直しをおこなって、できる限り空き区画がでないような対策をおこないます。
STEP.2 今後も利用者が見込めない場合には「サブリース」「解体」も検討
今後も利用者が見込めない場合などには、マンションの住人以外に駐車場を貸すサブリースの方法や、さらに事態が深刻な場合には、機械式駐車場設備を取り壊すなどの対応も検討していく必要があるでしょう。機械式駐車場を解体するには「地下ピットの埋め戻し」や「埋めずに鉄板で塞ぐ」工法などがあります。
集中豪雨による地下ピットの浸水事故
2019年の9月の台風19号による大雨でタワーマンションが大きな被害を受けたことが連日ニュースになりました。都市部のマンションでは集中豪雨で大量の雨水が排水路や下水管に流れ込み、それが処理能力を超えるとマンションの施設内に水が流れ込みます。都市部のマンションでは地下ピット式の立体機械式駐車場が設置されていることが多くゲリラ豪雨によって機械式駐車場内の地下ピットに水が流れ込み、地下ピット排水ポンプの限界を超えると水が溢れて、設備の故障や地下に停めてある車両の浸水事故がなどが多発しています。
駐車場の保守点検の必要性
機械式駐車場はエレベーターと違い法定の点検はありませんが、機械に不具合があっては重大事故を引き起こす可能性があるので定期的な保守点検が必要です。
保守メンテナンスに関するご質問
Q.保守メンテナンスは法定点検ですか?
A. 法定点検ではありませんが、建築基準法第八条 維持保全に基づき、定期保守をお勧めしています。
建築基準法第8条(維持保全)
建築物の所有者、管理者又は占有者は、その建築物の敷地、構造及び建築設備を常時適法な状態に維持するように努めなければならない。
公益社団法人立体駐車場工業会のホームページより
排水ポンプの点検も必要
また、駐車場本体だけではなく駐車場の下にある排水ピットの清掃や排水ポンプの点検も定期的に実施する必要があります。駐車場の地下のピットには雨天時に水貯まるとポンプが作動して水を排水する構造になっています。この排水ポンプが作動しないと車両の浸水事故などにつながります。法的な制限がなくても安全を確保するために専門業者に依頼して定期的なチェックや保守は欠かせません。
保守点検費用の相場は1台あたり月額3,000円程度
機械式駐車場を設置している場合は、法定点検ではありませんが安全にかかわることですので、定期的に点検をおこないます。点検作業は管理会社を通じて専門業者がおこない理事はその報告を受け取ります。
作業内容についても法定点検が義務付けられているわけではありませんので、点検内容は業者任せになっています。一般的に理事会でおこなっているのは保守点検作業後に提出される報告書を確認するぐらいです。
そこで実際に点検作業でどんな作業をしているのか一度、理事会で点検作業に立ち会ってみてはいかがでしょうか。あきらかに手抜きな作業がおこなわれている場合には、素人目にもわかることが多いものです。点検報告書に記載されている点検時間や人数などが守られていないなど、報告書の内容との相違があることも残念ながらよくあります。
メーカ系と独立系の保守会社
エレベーター保守会社と同様に機械式駐車場でも製造したメーカー系と、基本的にどのメーカーの保守も引き受ける独立系保守業者にわかれます。費用面では独立系の保守業者の方が安価な傾向がありますが、保守の内容が故障時の出動対応まで含むか否か、部品交換時の費用負担などにより、単純に比較することはできないので確認が必要です。費用負担が問題となる場合には、独立系の業者を検討しても良いでしょう。
保守業者の変更に関しては、エレベーター保守業界以上に機械式駐車場保守業界はメーカー系保守業者の影響力が強く、独立系保守会社に変更するとメーカーからの部品調達価格や納期などで嫌がらせを受けたなどのケースも多くありますので、そのあたりのリスクを慎重に検討する必要があります。
リニューアル費用の目安
機械式駐車場や立体駐車場の耐用年数は一般には20~30年程度とされています。ですから1990年以前に建築されたマンションでは、機械式駐車場の設備の入れ替えを検討する時期になっています。マンションの駐車場の形態によってリニューアル費用も大きく異なってきますが、マンションの設備の中でも、機械式駐車場は特にリニューアル費用が高額になります。
駐車場設備の維持管理には費用がかかる
駐車場設備のリニューアル費用は、各区分所有者が管理組合に対して支払った修繕積立金から捻出されることになります。点検費用だけを単年度のみでみていくと大した金額と映らないかもしれませんが、20年、30年後といった将来のリニューアル費用まで考えるとその費用は膨大なものになりますので管理組合にとって決して見落としてはならない大きなコスト負担となります。
マンションでの駐車場料金設定の2パターン
分譲マンションの駐車場は、一般的にマンション管理組合の所有です。したがって駐車場の維持管理に要する費用は、管理組合が区分所有者から徴収する管理費や修繕積立金から支払われます。したがって、例えば「マンションの駐車場料金が無料」といった場合には一見得をしているようですが、徴収する駐車場使用料だけでは維持管理が十分できなくなる恐れがあります。こうした費用が不足すれば、その分を「管理費」や「修繕積立金」の値上げで対応せざるを得ません。長期修繕計画を踏まえた上で駐車場使用料が適正か判断しなくてはなりません。
- 駐車場料金が無料または極端に安い
- マンションの分譲主からすれば、駐車場使用料を低く設定することは広告チラシなどで大きなセールスポイントになります。駐車場が1住戸あたり1区画といった建物であれば、不公平感は少ないですが今後の維持管理に掛かる費用を考えると不安が残ります。
- 駐車場料金が周辺相場並
- 駐車場使用料を点検費用に充当し、余剰金は「修繕積立金」として将来の駐車場設備のリニューアルに備える方法です。この場合には実際に駐車場を利用する方が、駐車場の維持管理費を負担するため不公平感は少ないでしょう。
機械式・立体式駐車場のトラブルと危険性
そして、駐車場保守点検業者やマンション管理会社の担当者・マンション管理士は担当するマンションで機械式駐車場の危険性について啓蒙するとともに、その対策について提案する必要があるでしょう。
機械式立体駐車場の危険性
平成26年10月に改定された械式立体駐車場の安全対策に関するガイドラインによると機械式立体駐車場における一般利用者等の死亡・重傷事故は、平成19年度以降、少なくとも26件発生しており、児童が亡くなる痛ましい事故も発生しています。機械式立体駐車場については、その設備ごとに危険な箇所や注意すべき点が異なり、製造者、保守点検業者、管理会社、管理組合、利用者等は、それぞれ連携・協力して安全対策に取り組むことが必要です。
マンションでの痛ましい事故を防ぐためにも、マンション管理組合や理事会では、自分たちで行える取り組みについて改めて考え直すことが大切です。
マンションの機械式駐車場の危険性についての関連サイト
■【外部サイト:動画】
多段式駐車装置の正しい利用方法及び事故事例/公益社団法人 立体駐車場工業会
■ 公益社団法人立体駐車場工業会のホームページ
機械式駐車場を安全にご使用いただくためのパンフレット
■ マンション管理業協会のホームページ
機械式立体駐車場の安全対策についての取材レポート。
マンションの駐車場設備についての統計等
■ マンションでの駐車場の有無
平成30年度マンション総合調査によると、駐車場のあるマンションが全体の『88.5%』、駐車場のないマンションが全体の『6.7%』で、分譲マンションのほとんどで駐車場設備を保有しています。
■ マンションでの駐車場の種類
駐車場の種類別の割合では「平面式」78.0%、「機械式」32.2%、「立体自走式」5.3%となっています。分譲マンションの魅力のひとつに駐車場が自宅内にあるということがあげられるでしょう。利用者の使い勝手の面では平面式駐車場が機械操作の不便もないことから魅力がありますが、都心部など地価の高い地域では、機械式駐車場も多くみられます。
■ 機械式駐車装置の設置状況
機械式駐車装置の出荷台数の推移をみると機械式駐車装置は1962年に、日本で初めて設置されて以来、2016年3月末時点で、累積出荷台数は約301 万台となっています。
出典:国土交通省「機械式立体駐車場の安全対策に関するガイドラインの手引き」