分譲マンションでのエレベーターの有無及び基数
平成30年度マンション総合調査によると、エレベーターが設置されているマンションが「92.4%」、エレベーターがないマンションが 「6.7%」となっています。このように分譲マンションでは、エレベーターは当たり前の設備になっています。エレベーター設備は70戸くらいまでの中小規模のマンションで大体1基、それ以上の大型マンションや高層マンション、高級マンションだと複数基備え付けられていることもあります。
一階の住人だからエレベーターの費用を払わなくても良い?
管理費用の負担は、規約に別段の定めがない限り、共用部分に対する各区分所有者の「持分に応じて」、分担されると区分所有法で定められています。実際問題として、エレベーターの管理経費を持分ではなく使用頻度を基準として使用頻度を正確に計測することは不可能です。したがって、エレベーターを使わない1階の区分所有者であっても、エレベーターの管理コストを免除されることはありません。
【区分所有法】第1章[建物の区分所有]第2節[共用部分等]第19条(共用部分の負担及び利益収取)
各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取する。
エレベーターの法定点検は年に1回
マンションに備え付けられているエレベーター設備は、建築基準法の規定により、年1回の法定点検が義務付けられています。車にも車検があるように、エレベーターも建築基準法12条3項により「定期検査」をおこなって検査結果を特定行政庁におこなうことが義務付けられています。
そして、法定検査が行われた後は、「検査済証」と呼ばれるステッカーを「かご」の中の見やすい場所に掲示するルールになっています。これにより、きちんと法定点検が行われていることを、居住者をはじめとした誰もが目視で確認できるようにしています。
建築基準法第12条3項(報告、検査等)
昇降機及び第六条第一項第一号に掲げる建築物その他第一項の政令で定める建築物の昇降機以外の建築設備(国、都道府県及び建築主事を置く市町村の建築物に設けるものを除く。)で特定行政庁が指定するものの所有者は、当該建築設備について、国土交通省令で定めるところにより、定期に、一級建築士若しくは二級建築士又は国土交通大臣が定める資格を有する者に検査(当該建築設備についての損傷、腐食その他の劣化の状況の点検を含む。)をさせて、その結果を特定行政庁に報告しなければならない。
マンションで暮らしておられる方は「かご」に乗ったとき、この「検査済証」というステッカーを探してみると良いでしょう。ステッカーが貼っていない場合には、至急、管理を委託している管理会社に問い合わせをしましょう。
一般的には1ヶ月に1回点検を実施
法定点検で年に一度の点検が必要としましたが、法定点検とは別に(財)日本建築設備昇降機センター発行の「昇降機の維持及び運行の管理に関する指針」に基づいてエレベーターメンテナンス会社が通常、1ヶ月に1回の点検を実施しています。
最近では. 多くのエレベーター保守管理会社が「遠隔監視システム」を採用しており、保守技術員が実際に現地へ出向いて行う点検は2~3ヶ月に1回程度の実施が増えてきました。リモートによる点検を月1回、作業員による実地の点検は3ヶ月毎というように、複数の点検方法を組み合わせる方法が主流となっています。
ただし、独立系エレベーターメンテナンス会社では、リモートでの点検をおこなっているところはジャパンエレベーターだけです。(ジャパンエレベーターホームページ記載)エレベーターの日常点検のあり方はマンションごとに異なります。販売当初からの点検方法をそのまま踏襲しているケースが多いようです。
昇降機の維持及び運行の管理に関する指針
所有者等は、昇降機の維持及び運行の安全を確保するため、使用頻度等に応じて専門技術者に、おおむね1月以内ごとに、点検その他必要な整備又は補修を行わせるものとする。
費用削減のために点検回数を減らすことは慎重に!
費用の節減を目的に点検の頻度を毎月から隔月、3ヶ月に1回などというように減らしているケースも少なくありません。しかし、外国のメーカーであるシンドラー製のエレベーターによる死亡事故の教訓を忘れてはいけません。管理費の節減のため、エレベーターの日常点検の回数などを減らすなどという方法はリスクマネジメントという観点から好ましいことではないでしょう。
エレベーターの日常点検費がどうしても高いと感じられる場合は、管理組合の懐事情を率直に話し、点検の頻度はそのままに費用の減額で対応できないか、まずは管理会社やエレベーターメンテナンス会社に協力を求めてみましょう。意外とそれだけで削減に応じていただけるケースが数多くあります。
エレベーターの点検費用は、確かに決して安くはありませんので、コスト削減の対象となりやすいところですが、マンションの住人の安全に直結する部分ですので慎重に検討するようにしましょう。
2つの契約形態「POG契約」と「フルメンテナンス契約」の違い
エレベーターのメンテナンスに関する契約形態には、「(POG)契約」と「フルメンテナンス契約(FM)」という二つの契約形態があります。どちらの契約形態を採用していても給油や部品の調整作業、消耗品の交換などは、契約の範囲に含まれますので、これらの作業を実施することによって別料金が新たに発生するということはありません。
それでは、二つの契約形態で何が異なるのかと言うと、それは「部品の修理や交換」の必要が生じた場合であって、これが別料金となるのが「POG契約」であり、契約に範囲内に含まれるのが「フルメンテナンス契約」です。
エレベーター保守・点検業務標準契約書(用語の定義)
第2条 本契約書において用いる用語の定義は、次のとおりとする。
「フルメンテナンス契約」とは、定期的な機器・装置の保守・点検を行うことに加え、点検結果に基づく合理的な判断のもと、劣化した部品の取替えや修理等を行う契約方式をいう。
「POG 契約」とは、「Parts・Oil・Grease」の略で、定期的な機器・装置の保守・点検のみを行う契約方式で、劣化した部品の取替えや修理等を含まないものをいう。
「POG契約」と「フルメンテナンス契約」どちらがお得?
当然のことですが、契約に要する費用は、POG契約は割安になりますし、フルメンテナンス契約は保障が手厚いですので、その分割高となります。一般的な分譲マンションでは、フルメンテナンス契約を採用しているケースが多いでしょう。
しかしエレベーターの耐用年数は30年程度であり、当然、新しいうちはあまり故障がありません。そこで、さほど年数が経っていないマンションではPOG契約に切り替えるのもひとつの選択肢として検討してもよいでしょう。反対に、これまで長期にわたりフルメンテナンス契約をしてきたマンションが故障が増える時期に、POG契約に切り替えることは、得策ではないといえます。
保守点検(メンテナンス)費用の目安
エレベーター製造大手の「三菱・日立・東芝・オーチス・フジテック」系列のメーカー系メンテナンス業者と比較して、エレベーターのメンテナンスを専門とする独立系のメンテナンス業者の場合には、保守点検費用を30%程度、削減できる可能性があります。
契約形態 | メーカー系(1基あたり) | 独立系(1基あたり) |
フルメンテナンス契約 | 4万円~6万円/月額 | 3万円~4万円/月額 |
POG契約 | 3万円~5万円/月額 | 2万円~3万円/月額 |
「メーカー系」と「独立系」エレベーターメンテナンス会社の違いとは?
メーカー系エレベーターメンテナンス会社とは、東芝、三菱、日立等のメーカー系列に属している保守点検業者です。独立系メンテナンス会社はそういったエレベーターメーカーには属せずに、すべてのメーカーのエレベーターのメンテナンスをおこなっている会社です。独立系メンテナンス業者は、元々メーカー系保守点検業者の下請けだったルーツを持つことが多いようです。
「メーカー系列」の主なエレベーターメンテナンス会社
「独立系」の主なエレベーターメンテナンス会社
独立系エレベーターメンテナンス会社に変更するメリット
独立系エレベーターメンテナンス会社に切り替える一番のメリットは、なんといっても、メンテナンス費用を大幅に削減できることです。独立系エレベーターメンテナンス会社はエレベーターのメンテナンスや保守点検を主業務にしていますので、メーカー系で必要な「開発」に掛かる人件費や「製造」等の費用が掛からない為、保守、メンテナンスを専門としている独立系の保守点検業者はコスト面では管理組合にとってのメリットとなります。
独立系のメンテナンス会社への変更を検討する場合に
国土交通省から、保守点検業者の選定にあたって留意すべき事項等を取りまとめた「昇降機の適切な維持管理に関する指針」が平成28年2月に公表されました。エレベーターメンテナンス会社の変更を管理組合で検討する場合には参考になる資料です。
昇降機の適切な維持管理に関する指針
第三章 保守点検業者の選定に当たって留意すべき事項
第1 保守点検業者の選定の考え方
第一章第1の目的を達するためには、昇降機に関する豊富な知識及び実務経験に裏打ちされた技術力を有する者による適切な保守・点検が必要不可欠であることから、所有者は、保守点検業者の選定に当たって、価格のみによって決定するのではなく、必要とする情報の提供を保守点検業者に求め、専門技術者の能力、同型又は類似の昇降機の業務実績その他の業務遂行能力等を総合的に評価するものとする。
定期検査で指摘される既存不適格とは
年1回の定期検査で「既存不適格」と指摘されることがあります。現時点で存在している建築物や設備は、建築された当時の法令に基づいて製造されています。そのため、建築基準法令が改正されると、新しい法規に適合しないことがあります。
この場合には、現時点の建築物(既存建築物)は 、新たに定められた法令の規定が適用されません。これを既存不適格とよびます。既存不適格のエレベーターであっても、現在使用しているエレベーターは引き続き使用することができますが、確認申請を必要とするエレベーターの改修等の際には、現行法令に適合することが求められます。
ただし、法令上は既存不適格で問題がなくても、安全上は現在の基準を満たすことが望ましいため、エレベーターメンテナンス会社や管理会社から改修の見積もりを取得して理事会で改修工事を検討しましょう。
エレベーターに乗っている時に地震が起きた場合の対応
地震発生時にエレベーターに乗ってた時の対応
- 揺れを感じたら、行先階のボタンをすべて押す
揺れを感じると最寄階で自動的に停止する安全装置がついたエレベーターもありますが、利用中の方もご自身で “すべての” 行先階ボタンを押し、最初に停止した階で降りる。 - エレベーターの中の状況をインターホンで通報
無理に脱出をしようとすると大変危険です。エレベーターは必ず外部と連絡がとれるような装置(インターホン)がついていますので、状況を正確に通報し、救助を待つ。 - 停電してもあわてない
地震とともに停電が発生した場合は、ただちに非常用バッテリーが起動して非常用照明が点灯します。カゴ内がまっ暗になることはありませんので、落ち着いて外部と連絡をとり救出を待つ。
エレベーターかご内の防災備蓄キャビネットの必要性
最大震度6弱を観測した大阪北部地震では発生後に高層マンションやビルなどでエレベーターに閉じ込められるケースが相次ぎました。閉じ込め件数は339件、運転停止は5万基以上の規模になりました。震度4以上の揺れで一時停止した場合には、保守業者による点検が済むまで動かすことができません。
地震時は交通渋滞で保守業者の到着が遅れ長期間にわたりエレベーターのカゴ内に閉じ込められることになります。
万が一、エレベーターのカゴ内に閉じ込められたときに自力で脱出する方法は用意されていません。また、エレベーターのカゴを開閉するには、エレベーターメンテナンス会社が所有するメーカー毎に異なる特殊な鍵(道具)が必要になりますのでエレベーター内に閉じ込められた場合には、保守業者やレスキュー隊の到着を待つしかありません。
エレベーター内で救助が来るまで長時間過ごさなければならないことを想定して、防災用品を備蓄するキャビネットを設置し、「簡易トイレ」や「飲料」「ライト」「ラジオ」などをエレベーター内に確保しておきましょう。
千代田区では、マンション向けにエレベーター非常用備蓄キャビネットを配付しています。
マンション内で急病人の搬送が必要になった場合の対応
マンションのエレベーターには、急病人を担架やストレッチャーに寝た状態でも搬送が可能になるようにカゴを広げる仕組みがあります。通常、エレベーターの中には、壁に傷つき防止用のマットが設置されていますので気が付きませんが、エレベーターのカゴの奥にはトランクルームが設置してあります。これは急病人を担架やストレッチャーに寝た状態でもエレベーターにのせて搬送できるように、エレベーターのカゴの壁面に観音開きの扉がついています。この扉を開くことにより奥行きが30センチ程度広がります。
鍵を共通キー「EMTR」に交換しよう
トランクルームの開閉には鍵が必要です。このトランクルームの鍵は、一般的には管理室に保管されています。しかし管理室は、鍵を管理会社が保管していることも多く、災害時や急病時に管理室を開閉することができないのでトランクルームの鍵を取り出すことができない懸念がありました。
そこで、これまでバラバラだったトランクルームの鍵は、平成15年10月以降に全国すべてのエレベーターで使える共通の鍵に統一されています。この共通の鍵には「EMTR」という刻印がされています。この鍵は、全国共通であるため救急隊員やレスキュー隊も所持しているため緊急時に鍵がないといった事態を防ぐことができます。
既に、エレベーターメンテナンス会社や管理会社から提案があってEMTR鍵への交換は終わっていると思いますが、万が一未交換の場合には、統一鍵に交換することを推奨します。統一鍵(EMTR)への交換は、各エレベーター会社や管理会社に依頼することになります。費用は約4万円程度です。