マンション標準管理委託契約書とは
「マンション管理会社」と「管理組合」の管理委託契約は管理会社と管理組合が個別に話合いを行い、双方の合意に基づいて契約が交わされるのが原則です。しかし、管理の専門家ではない管理組合の理事が、契約の内容について一つ一つ確認していくことは現実的には困難です。そこで、国土交通省は、管理組合にとって著しく不利な契約とならないように、マンションの管理委託契約に関する雛形として「マンション標準管理委託契約書」を公表しています。
言ってみればマンション標準管理委託契約書は、国土交通省が管理会社にとって一方的に都合のよい内容にならないように規制する目的で作成しています。多くの管理会社ではこの標準管理委託契約書をベースに契約書を作成しています。しかし管理組合毎に管理内容は異なってきますので、管理組合の実情に合わせて「マンション標準管理委託契約書」の内容を「変更・追記」する必要性がでてきます。
マンション標準管理委託契約書コメント
この契約書は、典型的な住居専用の単棟型マンションに共通する管理事務に関する標準的な契約内容を定めたものであり、実際の契約書作成に当たっては、個々の状況や必要性に応じて内容の追加、修正を行いつつ活用されるべきものである。
実務上、管理委託契約書の書面は管理会社が用意することが多いのですが、多くの管理会社では、この「標準管理委託契約書」を基本として、マンション個別の事情について加筆・修正する方法で「管理委託契約書」を作成しています。
管理委託契約書では、業務の範囲を明確にした上でその内容が管理組合にとって適切であるか検討する必要があります。特に契約の有効期間や中途解約ができるかは「管理組合」と「管理会社」との間でトラブルが生じたときによく問題になるので確認が必要です。
管理委託契約書のチェックポイント
マンションの管理委託契約の雛形である「標準管理委託契約書」と著しく内容の異なる契約書を締結しているマンションでは業務を委託しているマンション管理会社に理由を確認する必要があるでしょう。
管理委託契約書・チェック1│解除に関する記載
契約の解除に関する条項が記載されているか、また損害賠償請求についての記載が省略されていないかを確認します。
【マンション標準管理委託契約書】第18条(契約の解除)
甲及び乙は、その相手方が、本契約に定められた義務の履行を怠った場合は、相当の期間を定めてその履行を催告し、相手方が当該期間内に、その義務を履行しないときは、本契約を解除することができる。この場合、甲又は乙は、その相手方に対し、損害賠償を請求することができる。
2 甲は、乙が次の各号のいずれかに該当するときは、本契約を解除することができる。
一 乙が銀行の取引を停止されたとき、若しくは破産、会社更生、民事再生の申立てをしたとき、又は乙が破産、会社更生、民事再生の申立てを受けたとき
二 乙が合併又は破産以外の事由により解散したとき
三 乙がマンション管理業の登録の取消しの処分を受けたとき
管理委託契約書・チェック2│契約の解約に関する記載
解約の申し入れに関して、3ヶ月前の期間を、管理会社解約されるのを防ぐ意図で期間が延長されているケースがありますので確認が必要です。
【マンション標準管理委託契約書】第19条(解約の申入れ)
前条の規定にかかわらず、甲及び乙は、その相手方に対し、少なくとも三月前に書面で解約の申入れを行うことにより、本契約を終了させることができる。
管理委託契約書・チェック3│管理費等滞納者に対する督促に関する記載
管理会社による督促の期間は「マンション標準管理委託契約書」に具体的な定めはありませんが、一般的には6ヶ月とされているケースが多いようです。この督促の期間が著しく短期間に設定されていないか確認をおこないます。
【マンション標準管理委託契約書】別表第1(事務管理業務)
②管理費等滞納者に
対する督促一 毎月、甲の組合員の管理費等の滞納状況を、甲に報告する。
二 甲の組合員が管理費等を滞納したときは、最初の支払期限から起算して○月の間、
電話若しくは自宅訪問又は督促状の方法により、その支払の督促を行う。
三 二の方法により督促しても甲の組合員がなお滞納管理費等を支払わないときは、乙はその業務を終了する。
管理委託契約書・チェック4│緊急時の対応に関する記載
コメントにあるように、「緊急時の業務」は、マンション毎の地域性や設備に併せて追記されている必要があります。例えば、マンションの立地が河川の側で、台風のときに、機械式駐車場が浸水する危険性が高い場合には、その対応について具体的に記載されていることが望ましいといえます。
マンション標準管理委託契約書・第8条(緊急時の業務)
乙は、第3条の規定にかかわらず、次の各号に掲げる災害又は事故等の事由により、甲のために、緊急に行う必要がある業務で、甲の承認を受ける時間的な余裕がないものについては、甲の承認を受けないで実施することができる。この場合において、乙は、速やかに、書面をもって、その業務の内容及びその実施に要した費用の額を甲に通知しなければならない。
一 地震、台風、突風、集中豪雨、落雷、雪、噴火、ひょう、あられ等
二 火災、漏水、破裂、爆発、物の飛来若しくは落下又は衝突、犯罪等
2 甲は、乙が前項の業務を遂行する上でやむを得ず支出した費用については、速やかに、乙に支払わなければならない。ただし、乙の責めによる事故等の場合はこの限りでない。
ー コメント ー
第8条関係
① 本条で想定する災害又は事故等とは、天災地変による災害、漏水又は火災等の偶発的な事故等をいい、事前に事故等の発生を予測することが極めて困難なものをいう。
② 第1号及び第2号に規定する災害及び事故の例等については、当該マンションの地域性、設備の状況等に応じて、内容の追加・修正等を行うものとする。
補足│マンション標準管理委託契約書の準拠の状況
平成30年度マンション総合調査によると、マンション標準管理委託契約書に「概ね準拠しているマンションが94.6%と最も多くなっています。つまり、ほとんどのマンションでは「標準管理委託契約書」に基づいた委託契約書を管理会社と締結しています。
補足│管理委託契約書の履行の問題
「管理委託契約書」の記載内容とは別の問題としてこの管理委託契約の履行に関する問題があります。管理会社が「管理委託契約書」に定められた内容をきちんと履行しないという問題です。(これを民法では「債務不履行」といいます)「管理組合」と「管理会社」の責任の所在を明確にするには、双方が管理委託契約書に記載されている内容をしっかりと把握していることが全ての前提となります。
管理組合の側では、当然管理会社の仕事と思い込んでいる業務の内容が、実は契約の範囲外ということが往々にしてあります。こういった誤解を避けるためにも「重要事項説明会」などの機会などをとおして、契約内容について理解を深めることが重要です。
この記事のまとめ
管理組合にとって不利な契約(管理会社にとって有利な契約)を締結しないように、コストの問題はありますが、マンション管理士等のコンサルタントを顧問として活用することも有効な方法です。