マンション管理のコンサルタントであるマンション管理士の仕事とは
マンション管理士の最も基本的な業務は、総会や理事会に出席してマンション管理の経験や知識の乏しい管理組合員に対して、助言やアドバイスをおこなうことです。また、マンションが抱えているトラブルやクレーム等に対しても強力なサポーターです。例えば「理事会の運営に関する不満」「生活音やペット飼育等のマナーをめぐる対立」「漏水や劣化などの建物の不具合」などの問題解決の支援も業務としています。
マンション管理士とは― マンション管理適正化法第2条 ―
国土交通大臣の登録を受け、マンション管理士の名称を用いて、専門的知識をもって、管理組合の運営その他マンションの管理に関し、管理組合の管理者等又はマンションの区分所有者等の相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うことを業務とする者をいう。
マンション管理士になるのは難しい?
マンション管理士は、マンション管理組合や理事会のコンサルタントとしての専門知識を持つ国家資格者です。同じ不動産の資格でもっともメジャーな宅建士と比較して、マンション管理士はあまり知られていませんが、実はかなり難易度が高い国家資格です。マンション管理士の合格率は、7~9%となっています。それだけマンション管理のコンサルティングをおこなうには必要な知識が多いということでしょう。
マンション管理士が必要な理由
築年数が古くなれば増え、設備に関するトラブルや、空き家、高齢化の問題などが露呈します。新しいマンションでは居住者間のマナーに関するトラブルや、価値観の違いによるクレーム等が発生しがちです。
こうした複雑なマンション管理の現場では、マンション管理士のような中立公正な立場で客観的に判断できる専門家が必要とされています。例えば「管理会社からの提案」が適切であるか判断する場合には、第三者の立場であるマンション管理士の存在が管理組合にとっては心強いでしょう。
管理会社がいてもマンション管理士は必要
大多数の管理組合では、管理会社に業務を委託していますが、例えば「管理会社への業務委託費は妥当か?」管理会社が代理店となっている「共用部分に掛けられている損害保険料が適切であるか?」といった判断は、利害関係のある管理会社よりも、第三者であるマンション管理士の方がより適切なアドバイスができるでしょう。
マンション管理士がサポートしてくれるのなら理事をやっても良い?
マンション管理士を顧問として採用することによって、これまで理事になるのを嫌がっていた方も「専門家がフォローしてくれるのなら理事になる」という事もあります。したがって、特に「理事のなり手がいない」「理事に管理の知識が不足している」といった管理組合では、マンション管理士を顧問として採用することをおすすめします。
マンション管理士と顧問契約をするメリット
マンション管理士を顧問に採用する最大のメリットは、管理組合が抱える悩みをいつでも相談できることです。マンション管理士が理事会や総会に常に出席することで、管理組合のちょっとしたトラブルや問題でも気兼ねなく相談に応じてもらえます。
メリット1理事会内・居住者間のトラブルを防ぐ
分譲マンションは住人によって購入目的が違うことや20代の独身者や80代の高齢者にいたるまで年齢やライフスタイルが異なるため意見の対立が起こりがちです。理事会内や「理事会と居住者」といった対立を防ぐためには第三者の立場であるマンション管理士等のコンサルタントが有効です。単にマンション管理の専門知識を補うだけではなく、ファシリテーターとしての役割を担います。
メリット2理事会の業務に継続性をもたせる
管理組合の理事会のメンバーは輪番により毎年人員が入れ替わるのが一般的です。特に大規模修繕工事や管理規約の変更などのプロジェクトが進行しても一年で理事が入れ替わってしまっては適切な理事会の運営をおこなうことができません。マンション管理士が顧問になることにより、継続性をもった長期的な管理組合運営をおこなうことができます。
メリット3癒着のない公平な理事会運営ができる
マンションの居住者間のトラブルに発展しやすい問題のひとつが、長年、「理事」をつとめる方と「管理会社」「大規模修繕工事の業者」と癒着が疑われる問題です。マンション管理士が第三者の中立性をもって管理組合の運営に参加することによって、居住者間の利害関係によるトラブルを未然に防ぐことが可能です。
メリット4マンション管理会社への抑止力となる
マンション管理組合が毎月多額な費用を支払って、管理業務をおこなうのがマンションの管理会社です。おとなしいマンションの理事会に対しては、どうしても手抜きになりがちで利益率の高い提案をされがちです。コスト意識の高いマンション管理士が理事会に参加することによって、管理会社の担当者(フロント)に緊張感を与えます。
マンション管理士の顧問契約の報酬額の目安
マンション管理士との顧問契約の有効性は理解できても、どれくらいの費用負担が必要か気になるところです。マンション管理士事務所の報酬額を調べてみると、マンションの立地や設備、戸数などによっても報酬額は大きくかわりますので一概に平均額を算出することはできませんが、目安として以下の費用を参考として下さい。
報酬額の目安
~100戸 | 50,000円/月 |
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~200戸 | 80,000円/月 |
~300戸 | 100,000円/月 |
300戸~ | 110,000円~/月 |
マンション管理士の顧問契約では、特に理事会の開催頻度によって金額は大幅に変動します。管理組合がマンション管理士を雇用する際には、マンション管理士を理事会に招いた上で希望の内容や理事会の頻度などを打ち合わせ後に見積もりを依頼するのが一般的です。
マンション管理士の顧問契約の業務内容
マンション管理士事務所毎に業務内容は大きくかわりますので、業務内容について不明な点がある場合には、納得するまで説明を受けることが大切です。またマンション管理士の採用にあたっては住民説明会を開催するなどして、理事会だけではなく組合員全員がマンション管理士の業務について理解することが大切です。
- 理事会に出席・助言
理事会にマンション管理士が出席して必要な助言や提案をおこないます。 - 総会に出席・助言
「通常総会」「臨時総会」にマンション管理士が出席して必要な助言や、議案に対する組合員からの質問に対しての回答補助をおこないます。 - 理事会・総会議事録(案)の確認
管理会社が作成する議事録(案)について、マンション管理士が内容の正確性を確認して必要な校閲をおこないます。 - 管理会社作成資料の確認
管理会社から理事会へ提出された資料(月次業務資料、会計資料、見積書)等の内容をマンション管理士が確認して必要な助言や指摘をおこないます。 - その他
「管理規約の改正」「管理費の削減」などが顧問契約の業務に含まれることがありますが、マンション管理士事務所毎に業務範囲が大きく異なりますので確認が必要です。
顧問契約でのマンション管理士導入をおすすめする理由
マンション管理士の顧問業務は一般的に毎月固定の定額制のため、管理組合の予算を立てやすいことが分譲マンションにとっては導入しやすいポイントです。しかし、一般的には、管理組合では何らかの問題が起きてからスポットでマンション管理士等のコンサルタントにアドバイスや支援を受けるケースが多いようです。この場合には、依頼を受けたマンション管理士は、問題の状況把握などの労力と手間がかかることから、時間給として管理組合側が負担する費用がかさみます。マンション管理士を顧問として採用することで迅速な対応と管理組合側の費用負担も抑えることが可能です。
マンション管理士事務所選択のポイント
マンション管理士事務所の顧問契約サービスでは、どこの事務所でも「理事会」「総会」への出席は、基本業務に含まれるでしょう。ただしそれ以外の業務については、業務範囲が事務所ごとに異なり、明確にされていない事務所もありますので注意が必要です。
例えば、「管理業務の仕様の見直し」は顧問契約に含まれるのか、「管理会社への減額交渉」は別途費用が追加されるかなど、事前に業務範囲を明確に提示しているマンション管理士事務所を選択するべきです。
その他選択のポイントとしては以下のような項目をチェックすると良いでしょう。
その1性格や人柄といった相性が大切
マンション管理士を選ぶにあたっては、マンション管理士がもつ知識や経験がもっとも大切ですが、顧問とは長年にわたって継続したお付き合いをする関係ですので相性も大切な要素になります。マンションの抱える問題を常に理事会や住人と共有できるような「管理組合とマンション管理士」との関係が重要になります。
その2いつでも理事からの相談を受け付ける体制
マンション管理士によっては、マンション管理士専業ではなく、別の仕事と兼務している場合があります。このようなマンション管理士では、いざ、理事が「メール」や「電話」で連絡をしてきても、迅速な対応は不可能です。顧問契約を依頼するマンション管理士は、最低限マンション管理士事務所を専業でおこなっていることが重要です。
その3弁護士や建築士等の専門家とのネットワーク
マンション管理組合の様々な問題に対し、弁護士や建築士等の専門家ネットワークを有していることが大切です。マンション管理の問題は多岐におよびますので、専門的な問題やトラブルを起こるたびに、マンション管理士以外の専門家を理事会が探すようでは、マンション管理士と顧問契約を締結するメリットが薄れてしまいます。
その4業務範囲が明確であり有料オプションが記載
顧問契約サービス期間内に、マンションでは新たな課題が見つかる場合があります。管理規約の改正が至急必要になったり、管理委託費の減額交渉の必要性が生じたりすることも想定されます。そうなった場合に、顧問契約期間内であれば「無料」でおこなう業務に含まれるのか、「有料」であるかは、マンション管理士事務所により対応がわかれるところです。ですから、基本業務と有料オプション業務が明確になっているかは、顧問契約の依頼先を選択する上で、欠かせないチェックポイントです。
補足|マンション管理士の活用の実態
平成30年度マンション総合調査結果によれば、必要に応じてマンション管理士に支援を求める管理組合が約4割となっています。マンション管理士の業務には「管理規約変更」や「管理費削減」など短期間(スポット)契約でおこなわれることもありますが、管理組合では追加予算などが発生した場合の対応が難しいため、できるだけ毎月固定の顧問契約での採用をおすすめします。
この記事のまとめ
マンション管理士という国家資格をもった第三者の専門家をうまく活用することで、理事会の負担を減らすメリットの他、マンション管理士が管理組合運営の隅々まで把握することで管理組合の問題を未然に防ぐ効果が期待できます。
マンション管理士への報酬支払いによるコスト増を問題にする管理組合も多いようですが、マンション管理士が常に管理会社から提出された見積もりの額や内容をチェックすることにより、顧問契約で支払う(毎月3万円~)のコスト増は十分ペイできるでしょう。