マンションの防火管理者とは
区分所有マンションでは、収容人員数が50名以上、店舗など併設している場合には30名以上のマンションにおいて防火管理者の選任が義務づけられています。防火管理者は消防法によって定められた制度で、火災の発生を未然に防止し、万一火災が発生した場合には、その被害を最小限にとどめる役割を担っています。
マンションの床面積や収容人員が少ない場合には、消防法では、防火管理者の選任義務がありませんが、多くのマンションではその要件に該当しません(防火管理者の選任義務がある)、仮に専任義務がなくても防火管理体制を構築しておくことが望ましいのは当然のことです。
ご自身のマンションで防火管理者が必要?
マンションでは収容人員が50人以上(店舗がある場合には30人以上)の場合には、消防法で防火管理者の選任が必要となります。収容人員は、マンションに常時居住している方の人数としますが、実際には、マンションでは居住者の実態把握が困難なため、下の表のように部屋の間取りによって1戸あたりの収容人員を計算します。
住戸のタイプ | 算定居住者数 |
1K、1DK、1LDK、2DK | 2人 |
2LDK、3DK | 3人 |
3LDK、4DK | 4人 |
4LDK、5DK | 5人 |
計算式:(5戸×3人)+(10戸×4人)= 55人
となり、マンションの収容人員は、55人となるため防火管理者の選任が必要となります。
マンションの防火管理者の主な仕事
分譲マンションの防火管理者の主な業務は3つです。※消防法によってさらに細かな規定が設けれています。
その1│消防計画の作成
消防法第8条では、管理権原者(マンション管理組合の理事長)はマンションの防火管理者を選任し、防火管理者をして消防計画を作成させ、これを所管の消防に届け出なければならないと定めています。
マンションでは防火管理者がきちんと選任され、消防計画が作成されていないと法律違反になり罰則を受ける場合もありますので、きちんと整備しておかなければなりません。消防計画については、マンション固有の避難経路や消防設備などの内容を具体的に盛り込み、実際に火災発生時にきちんと運用できることが重要です。
その2│消防訓練の実施
消防法では、マンションなどの共同住宅では、少なくとも年1回以上、消防避難訓練を実施するものとされています。消防避難訓練は、火災や地震の予行演習という意味とともに、マンションの居住者が実際に顔を合わせて、マンションの防災対策について省みる良い機会です。
理事会としては、訓練の内容を工夫するなどして、できる限り多くの居住者が参加するようにします。形式だけの訓練ではなくマンション内の消防設備の場所を実際に見て回ったり、非常食の炊き出しをおこなうなどイベント性を高めて参加者を増やします。
その3│マンション内の巡回点検等
マンション内を定期的に巡回して避難経路に荷物などの障害物がないか確認をしたり、消防設備点検の業者から提出される報告書に目をとおし、指摘事項があれば理事会などで解決策の検討をおこないます。
マンションにおける防火管理者の実際
防火管理者がおこなう実際の業務としては、管理会社の担当者から渡された点検報告書に目を通して押印したり、年に一回程度マンションで実施している消防訓練の際の進行を務めることです。いずれにしても管理会社からの指示に従って業務をおこないますので、消防設備等に関する高度な専門知識までは必要とされていません。
理事長が罰せられることもある?
消防法第8条では、管理権原者はマンションの防火管理者を選任し、防火管理者をして消防計画を作成させ、これを所管の消防に届け出なければならないと定められています。マンション管理組合の理事長は、マンションという共同住宅の「管理権原者」とされ、マンションの防火管理に関する最終責任者に位置付けられます。
そして、理事長は、火災や地震などの災害から自らのマンションを守るために、防火管理者を定めて、必要な防火管理業務を行わなければならないと法律に規定されています。ここで定められている防火管理業務とは、具体的には防火管理者の選任、消防計画の作成、また年1回以上の消防避難訓練の実施などのことを指します。
したがって、これらの防火管理業務の実施を怠ると、消防法に違反することになり、理事長が法律で罰せられる可能性もあります。
防火管理者のなり手の確保
一般的なマンションでは、防火管理者資格を所有している方を掲示板などで募る方法や副理事長が防火管理者を兼務するといったルールを設けていることが多いでしょう。
防火管理者資格を取得するには、消防署が主催する講習に、主に平日に2日連続して参加する必要があるため、仕事を就いている方にとっては講習を受講するのは大変な事です。
こうした講習を受ける手間や、防火管理者としての責任もありますので、防火管理者は敬遠されがちです。そこで、管理組合では防火管理者に対して「講習の経費」や「一定の報酬」を設けてことが一般的です。
マンションの防火管理者の報酬
マンションの防火管理者は、管理組合の役員とは異なり講習を受けて資格を取得することが不可欠です。また、防火管理者は「住人の安全を確保する」という重大な役割があるので、役員の選任とは異なり、防火管理者は輪番で決めるべきものではないでしょう。
こうした事情もあって、防火管理者のなり手が見つからない場合には資格取得のための受講料のほか、防火管理者手当として年間3万円程度の報酬を設定するマンション管理組合も多いようです。非常に重要な役割をもったマンションの防火管理者ですから報酬を支払うことは必要なことでしょう。なお、防火管理者に報酬を支払う場合には、報酬手当の額を定めた「防火管理者に関する細則」を作成した方が良いでしょう。
マンションの防火管理者の任期
本来であれば、公平性や多くの方が防災に対する知識を学ぶといった面から防火管理者は1年任期として毎年交代するのが良いのですが、実際には一度就任すると、そのままずっと続けるという管理組合が多いようです。
居住者による持ち回りで防火管理者を専任できれば良いのですが、マンションの通常総会での理事交代と同じタイミングで新しい防火管理者の選任をおこなえれば良いのですが、住人の中に防火管理者の資格保持者がいないため次の防火管理者のなり手が決まらないこともよくあります。
高齢化の進むマンションでは防火管理者がいない
高齢化がすすむマンションはもちろんのこと、賃貸人が多いマンションでは、賃借人から防火管理者を募ることはほぼ不可能ですので、より防火管理者のなり手不在が顕著になっています。防火管理者が選任できないと、管理組合に対し所轄の消防署から指導が入ります。
防火管理者の外部委託
仮に、マンションで住人が防火管理者に就任しても、実際には、名義だけで、日常の防火管理者としての業務がおろそかになっていて機能していないのが現実ではないでしょうか。マンションでは万が一の災害に対して準備をしておくことが重要ですので、こうしたマンションでは防火管理者を専門家に外部委託することを選択肢として検討してはいかがでしょうか。
この記事のまとめ
マンションには小さなお子さんから年配の方まで、様々な世代の方が居住していますし、来客や業者など多くの不特定の人々が出入りする建物でもあります。したがって、火災を未然に防止し、また火災による被害を軽減させるためにも防火管理に関する体制を予めきちんと整備しておかなければなりません。
防火管理者を選任しなかった場合や、防火管理者がいても日常の点検や消防訓練等の防火管理者としての業務をおこなわず、万が一火災等により死傷者が出た場合には、理事長が責任を追及されることもありえます。
こうしたリスクを背負うとなると、防火管理者の不在はもとより、今後益々理事長のなり手不足が深刻になってしまいます。
防火管理者を外部へ委託することにより、防火な管理者のなり手不足を解消するとともに、消防署の査察の立会いや消防設備点検書のチェックなどの手間を軽減、法令を順守することにより万が一のときに理事長のリスクを軽減することが可能です。
防火管理者のなり手がいない問題は、マンションの安全に関わることですので、単純に順番で居住者から選任しようといった運用は危険でしょう。しっかりとした防災意識を持った方が防火管理者になることが理想です。
住人から選任するにしても、専門家に委託するにしても、実体のある防火管理体制を構築することが大切です。特に、消防(防災)訓練を未実施のマンションでは、しっかりとした防火管理者を選任して定期的な訓練をおこなうようにします。